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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14616号 判決 1970年1月30日

原告 石坂洋次郎

右訴訟代理人弁護士 石井正一

被告 松竹株式会社

右代表者代表取締役 城戸四郎

右訴訟代理人弁護士 吉原歓吉

同 荒木勇

同 奥田一男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告は原告に対し金一三〇万円および昭和四三年一二月二一日以降右支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告代理人訴外協同制作社代表取締役北島宗人は、昭和四〇年一一月八日、被告との間で、原告が著作権を有する著作物「青い山脈」について、次のとおりの原作使用契約を締結した。

(一)  原告は被告に対し、原告が著作権を有する著作物「青い山脈」を連続テレビ映画(五六分)一三回制作するために使用することを承諾する。(但し再放映権を含む。)

(二)  原告は被告がこの契約に基づいて制作したテレビ映画を複製し、配給し、放映することを承諾する。

(三)  原告は被告がこの契約に基づいて制作するテレビ映画のためにこの著作権を使用して宣伝材料を作成し使用することを承諾する。

(四)  被告は原告に対し前三項の著作物使用料として金一三〇万円を左の方法によって支払う。

(1)  第一回 昭和四〇年一一月契約と同時に金六五万円

(2)  第二回 昭和四〇年一二月二〇日に金六五万円

(五)  被告は原告に対して、企画協力費として一本につき金二万円を作品の完成毎に、本数に応じて支払う。

(六)  本契約の有効期間は、このテレビ映画の封切後満二ヶ年とし、原告はその期間中は被告以外の者にこの原作をテレビ映画のために使用することを許可しない。

二、被告は、右契約にもとづいて、連続テレビ映画「青い山脈」を制作し、昭和四一年四月二五日から同年八月八日まで日本放送網株式会社(N・T・V)より放映し、右契約は右封切後二年を経過した昭和四三年四月二四日を以て失効した。ところが被告は原告に無断で昭和四三年一〇月七日から同月三〇日まで、右日本放送網株式会社より再放映して、原告の前記著作権を侵害し、原告に対し本件契約所定の使用料相当の損害を与えた。

三、よって、原告は、被告に対し金一三〇万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四三年一二月二一日以降右完済にいたるまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ(た。)

証拠≪省略≫

被告は、主文同旨の判決を求め、

答弁として、

再放映権の存続期間が封切から二年間であるとの点を除き右主張事実を認める。

本件契約においては、被告が前記「青い山脈」のテレビ映画化につきいつでも自由に再上映できる権利を保有する(いわゆる買取り。)趣旨の約定であった。被告は右契約所定の著作物使用料金一三〇万円を約定どおり支払ったのであるから、被告が再上映したからといって、原告の著作権を侵害したことにはならない。本件テレビ映画の封切後満二ヶ年間というのは、本件契約の有効期間ではなく、右期間中は原告は被告以外の者に前記「青い山脈」をテレビ映画のために使用することを許可しないという趣旨である。

と述べ(た。)

証拠≪省略≫

理由

一、原告代理人訴外北島宗人と被告との間で、昭和四〇年一一月八日、請求原因第一項記載の原作使用契約が成立したことおよび被告が本件契約所定の金一三〇万円を約定どおり原告に支払って、連続テレビ映画「青い山脈」を制作して、日本放送網株式会社より昭和四一年四月二五日から同年八月八日まで放映し、さらに同会社より同様に昭和四三年一〇月七日から同月三〇日まで再放映したことは当事者間に争いがない。

二、本件契約において、原告と被告との間で「再放映権を含む」旨の合意が成立していたことは当事者間に争いがないが、原告は本件契約の有効期間は「このテレビ映画の封切後満二ヶ年間」であるから、被告が前記「青い山脈」を始めて放映した昭和四一年四月二五日から二ヶ年を経過した昭和四三年四月二四日を以て、右契約は効力を失ったため被告の再放映権もなくなった、と主張する。

≪証拠省略≫を総合すると、被告は本件テレビ映画を日本テレビ放送網株式会社に二年間貸与して放映させ、二年経過した後は被告が自由に放映することとして、その旨原告に申入れて交渉したこと、原告代理人もこれを了承し原作使用契約の期間を二年とし二年の経過の後も被告が無償で再放映することを承諾したこと、このため使用料が高額に定められたこと、このようにテレビ映画を自由に再放映できる権利を取得することを、被告は買取りと呼んでいること、被告は、牢獄の花嫁なる著作物をテレビ映画化するため吉川文子と原作使用契約を昭和四三年八月一日締結したこと、同契約においては、契約期間を二年と定め、同期間経過後の再放映の権利は設定されず、再放映の場合にはその都度一定額の使用料を支払う旨定められたこと、このような契約の方式を被告は歩合と呼んでいること、再放映に関する約定は契約期間中に再放映ができるかということではなく、契約の期間が経過した後に再放映ができるかということに関するものであること、吉川文子との使用契約においてはこの趣旨が明瞭に記載されていること、本件契約書には再放映権を含むと記載されているにとどまるが、これは文案起草の未熟によるものであって、この再放映権とは二年の契約期間経過後の再放映の権利の趣旨であること、被告は本件のような買取りと、吉川文子の場合のような歩合とを厳格に区別して著作権者と交渉し、契約書も区別して作成していることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定事実によると、本件契約(一)、(六)各項の趣旨は、原告の主張するように本件契約の有効期間(本件テレビ映画の封切後満二ヶ年間)内のみ被告が自由に再放映できるという趣旨ではなく、右(一)項はいわゆる買取りの規定であり、右(六)項は契約の存続期間と原告の義務を定めた規定と解するのが相当である。

すると、本件契約所定の金一三〇万円を支払った被告が、再放映権を含む旨の合意にもとづいて、再放映したからといって、原告の前記著作権を侵害したことにはならない。

よって、原告の本訴請求は理由のないことが明らかであるから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 菅原敏彦 北山元章)

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